中華料理屋行った

中国女子は完全にホームシックで病んでいた
触れたものをぜんぶ灰色にしそうなオーラが
いつにも増して出ていた



客席と厨房のあいだのスペースで
誰にも聞かれないように話をした


実家に帰るの、て聞いたら
ハイ、て涙目でオレを見て言った
かわいそうに


僕が中国いけばいいんでしょ
とか
いろいろ言ってみたけど
すっかり傷心に浸っていたので付け入る隙がなかった
せめて帰る前までは楽しませてやろうとか
思ったり思ってなかったり





東京きて初めてのバイトの店長から
電話があった
アドレスはとっくに消してたけど
中華料理屋にいるときに二回電話があって
留守録聞いてかけ直した


デパートバイトしてるとこを見られたらしくて
今どうしてる?とか
全然板前なんてやってないすサーセンとか


オレが辞める原因になったアホな上司は
お父さんである社長とケンカしてもういない
今後うちの店は二店舗新たに増やす予定でいるんだけど
どうかな



二店舗すかすごいすね
やりますやります



また決まってきたら電話する、とのこと




そもそも東京へは
その店でバイトすると決めてから来ていて
ああいう店やりたいなという考えも持っていた
悪くない話だ
樹木希林似の店長や問屋の社長もいい人だけど
ずっと関わるつもりはないし


ただ借金なくなってから移りたい




そんな記録


今夜はあつかましい新聞配達人のモリタもきていて三時間も話した
明日は宝塚記念だとかで
最近は当たってるから明日は勝負にでる、とか
ニラは体にいいとか紹興酒は体にいいとか
当たり障りのないことを二回も三回も繰り返して言ってた
当たり障りのない人物なのだ



客で木村カエラみたいなのとそのお付きの人みたいなののカップルがいて
二人のテーブルの上に乗ってる黒いの、巨峰?食べたい
とか言ったら
そら豆ですとか言うのでびびった


よく聞いてくれたみたいにお付きの男が
酸っぱかったですなんか、
て言って


ちょっと食わしてもらっていいすか
いやこれは無いわ



木村カエラ
紹興酒で漬けたのかと思いましたとか


そら豆はもっと緑色でなくちゃ
モリタが何回も言って
コックがすいません知りませんでした
とかって謝って
お詫びにトマト出してた



たぶん、こないだ冷凍庫が壊れた時のをそのまま残していたんだろうな
木村カエラの椅子は脚が折れてて後ろに倒れそうになってたし
ただもうすぐこの店も中国女子もいなくなるのかと思うとさみしい気もしないでもない